もちろん、当時は遺伝子操作や培養などのバイオテクノロジーはありませんでしたが、経験と観察の積み重ねから、品種改良や突然変異を引き起こすノウハウが一部の愛好家の間では知られていたようです。
その結果、この園芸ブームを通して、多種多様な朝顔が生み出されました。
熱狂的な武家や町人達によって創り出された珍花奇葉の朝顔の中には、黄色い花びらを持つものや珍妙な形態のものまで、現代では観る事のできない品種も数多く存在したと言われています。
それらの朝顔から選りすぐりの三十六品種を選び出し、図版集として編纂したものが「朝顔三十六花撰」です。このタイトルは平安時代の著名な歌人の総称である「三十六歌仙」をもじって名付けたものです。
朝顔三十六花撰の図版は、稀代の博物画家・服部雪斎によって描かれました。雪斎の生い立ちはよく分かっていませんが、谷文晁の流れを引く門人であったと言われており、江戸後期から明治中頃にかけて活動していました。
その代表作には昆虫図譜の先駆けである「千蟲譜」や様々な貝殻を描いた「目八譜」などがあり、他にも数々の博物画を手がけた絵師でした。
雪斎の研ぎすまされた観察眼と精緻な筆遣いが捉えた朝顔の特徴的な花姿や葉、蔓の造形、そして色彩。
本書では、誇張や偽りのない千姿万態の朝顔の姿を描き出した図版が、その花名と出品者の名を沿えて、一頁毎に収められています。
かつて江戸時代に咲き誇り、そして今、雪斎の美麗な図譜を通して現代に甦る三十六種類の朝顔の姿を、是非ご堪能ください。
(LDP)
朝顔三十六花撰
【著者】服部雪斎 【編集】LOGDESIGN publishing
【ページ数】53ページ
【出版日】2014年9月14日(第1版)