まだ顕微鏡の解像度も低く、冷凍設備もなかった時代。利位は20年間に渡って観察を続け、86種類に及ぶ雪の結晶型を図版としてまとめました。
私家版としてごく少部数が制作された雪華図説は、その内容を絶賛し引用した「北越雪譜」が大ブームとなったことをきっかけに、庶民の間で知られるようになりました。
そして本書に描かれた雪の結晶をモチーフにした文様やパターン(雪華模様)が着物や装飾品のデザインに使われるようになったのです。西洋の学問や文化が徐々に広がり始めた江戸時代後期にあって、雪華模様は最新ファッションの一つになっていきました。
流行の変遷はさておき、土井利位自身にとっては純粋な興味から始めた観察だったでしょう。本書のテキストにも冬の夜に観察をした様子や西洋と東洋の雪の違いを記し、出張先の関西においても観察機会を設けたほどの熱意ぶりを記しています。
土井利位は三河刈谷藩主土井利徳の四男として生まれ、25歳の時に本家古河藩主土井利厚の養子となりました。
家督を継いだ後、家老に登用した鷹見泉石が蘭学者であったことから、泉石の協力の下に雪の結晶観察を行ったと言われています。鷹見泉石によるテキストは本書にも記載されています。
利位は大阪城代や京都所司代、幕府老中を歴任し、1837年に起こった大塩平八郎の乱の鎮圧にも貢献する等、幕政においても重要な存在でした。
その一方、大阪城代在任中には、大阪で雪の結晶観察を行った記録も残されている、なんともマニアックな人物だったようです。
利位の好奇心の結晶ともいえる「雪華図説」。
江戸の殿様が観察した自然の雪の造形を是非その目で確かめてみてください。
雪華図説: 殿様が描いた雪の結晶観察図鑑
【著者】土井利位 【編集】LOGDESIGN publishing
【ページ数】45ページ
【出版日】2014年11月25日(第1版)