朽木昌綱は書画に長けた殿様であったとともに、蘭学に熱心な研究肌の人物でした。参勤交代で江戸に住んでいた時期には前野良沢やオランダ商館長・ティチングらと交流し、蘭学を学ぶとともにオランダ語も話せたようです。
昌綱の古銭収集は13歳の頃より始まり、江戸の藩邸には古銭を買い入れる窓口を設定しているほどでした。また本書の序文を記した家臣・小澤辰元は江戸駐在時から昌綱の古銭収集のために全国を飛び回っていたと言われています。
珍貨孔方図鑑以外にも『西洋銭譜』や『新撰泉譜』『古今泉貨鑑』など数々の古銭関連本を刊行した昌綱ですが、本書の実質的な著者はこの小澤辰元のようです。
昌綱は水戸藩や薩摩藩など、昔から中国との貿易が盛んであった藩を中心に、古銭について問い合わせを繰り返し、少しずつコレクションを増やしていきました。
ですが、彼はただ収集して満足するのではなく、その収集した古銭を記録し、素材や色、形状を分析することでその国や時代の文化を知る事ができると考えていました。
貨幣マニアな趣味人のただの建前ともとれるかもしれませんが、本書の中身をみると、その緻密かつ網羅的な収集・研究の熱意には、ただただ圧倒されるばかりです。233種類に及ぶ貨幣が整然と写し描かれた図版は、「平銭」「奇品」「不知品」といったカテゴリー毎に分類されています。そして各図版には名称や発行された時代、時の皇帝名、特徴などが記載されています。
その点数の多さと類型学的な構成は江戸時代の著作としては珍しく、極めて完成度の高い図鑑となっています。
生涯にわたって貨幣の収集と研究を続け、数々の貨幣図鑑を刊行した生粋の古銭マニア・朽木昌綱。
その情熱と探究心が結実した本書は、数寄者ならば必見の一冊でしょう。
珍貨孔方図鑑
【著者】朽木昌綱【編集】LOGDESIGN publishing
【ページ数】45ページ
【出版日】2014年11月30日(第1版)